雪船エリザ

はなび
「お、それはなんだ？　夕飯の食材か……？」

ここあ
「んー、ちょっと違うかな。
　これはお菓子の材料！　お姫ちんへのプレゼントに
　クッキーを焼くつもりなんだー！」

はなび
「ああ、６月１７日だったか。悪くないんじゃない。
　随分大量に買ってるみたいだけど、そんなにたくさん
　エリザに渡すのか？」

ここあ
「お姫ちんだけじゃなくて、和哉とー、達哉とー、
　お父さん、それとお母さんに供える分……」

ここあ
「あと、お姫ちんの執事さんにも！」

はなび
「ああ、あの強そうな人。
　でもエリザの誕生日だろ？」

ここあ
「せっかくの誕生日だから、
　お姫ちんと執事さんで一緒に食べれたらいいなーっ
　て！」

ここあ
「執事がいるおうちってよくわからないけど、
　きっとお姫ちんにとってはあの人も大切な家族だも
　ん！」

はなび
「なるほどね、じゃあ私も何か用意するか。
　そういえば鼻眼鏡があるから渡してみるかな……」

ここあ
「あの執事さんに……鼻眼鏡…………」

ここあ
「……ぷひゅっ、にゃははは……に、似合いそう
　…………」

丹
「ねえセイラちゃん。
　お姫ちゃんへのプレゼントは決まったかしら？
　誕生日、６月１７日よ？」

セイラ
「エリザに渡すってなると、ちょっと悩んじゃうのよね。
　高級なものより、
　変わったものを渡そうと思うのだけど……」

セイラ
「ちょっと考えたのが、ドレスとティアラなの」

丹
「あら、悪魔と戦うときに着替える
　ドレスではなくて？

セイラ
「童話のお姫さまのような恰好は喜ぶかしらって。
　ほら、みんなエリザのことを『姫』って呼ぶじゃな
　い？」

丹
「そうね、お姫ちゃんが本当のお姫さまになったら……
　ええ、とってもかわいらしいでしょうね」

セイラ
「でも、さすがに買うお金はないから
　私には用意できないし……」

丹
「なら、レンタルはどうですか？　もしくは、
　コスプレして写真を撮れるお店とかありますよね」

丹
「誕生日の思い出に、お姫ちゃんを連れて
　みんなで行ったら楽しそうじゃないですか？」

セイラ
「ええ、とっても素敵ね……！
　せっかくだし、探してみるわ」

依子
「なに、はなびってばクーポンなんか持って。
　またジャンクフード食べに行くの？　好きだねぇー」

はなび
「へへへ、残念ながら有効期限は６月１７日からだ。
　ちょうどエリザの誕生日だな」

依子
「まさかそれ、誕生日プレゼント……？」

はなび
「それも考えたけど、せっかくだし
　エリザを連れてジャンクフードの食べ歩きでも
　しようかなと考えてる」

依子
「姫ってそういうの全然食べない印象あるけど……
　『こんな庶民の食べ物なんていりませんわー！』
　とか言いそうじゃない？」

はなび
「それだよ、ジャンクフードを
　たかが庶民の食べ物と侮られては困るって話だ」

はなび
「徹底的に値段を切り詰めつつも、
　食べやすさ、作りやすさ、バリエーション、
　そして何より味にこだわった人類の歴史の産物」

はなび
「もし口に合わないとか言い出したら？
　それなら気に入ったところが見つかるまで
　連れまわしてやるだけさ」

依子
「……ちょっとそれ楽しそうだから、
　今度イコも連れて行ってよ」

はなび
「体重はいいのか？　アイドルさんよ」

依子
「これでもハードなレッスンしてるんだよ？
　たまにはしっかり食べなきゃ！」

いろは
「りりちゃんりりちゃん！　それ『銅鑼衛門』だよね！
　カオリンの部屋で読んだことある！
　りりちゃんも読んでるんだー！」

りり
「いやーこれアタシのじゃないんだよね。
　姫ちんにプレゼントしようと思って、
　何冊か買ってきたやつ」

いろは
「６月１７日だねよ！　エリザちゃんの誕生日！
　エリザちゃんも漫画読むのかな？」

りり
「どうだろ？　正直漫画としてじゃなくて、
　資料とかアイデア的な意味でこれ選んだんだよね」

いろは
「どういうこと？」

りり
「ほら、この漫画っていろんな秘密マシンとか
　ロボットとか出てくるじゃん？」

りり
「姫ちんそういうの好きだし、
　もしかしたら作れたりするのかもーと思って！」

いろは
「すごい！　それならあたしたち、
　過去とか未来に行けるマシンに乗れたりして！」

りり
「お！　夢は広がるねーぇ！
　未来のアタシがどうなってるのとか興味あるわー！」

りり
「じゃあこれからは困ったことがあったら、
　姫衛門に助けてもらっちゃおーう♪」

陽彩
「すまないな蒼。買い物に付き合ってもらって」

蒼
「このくらいお安い御用だ。辞書は陽彩には重いしな。
　しかし、これはもしかして
　姫への誕生日プレゼントか？」

陽彩
「ああ、６月１７日に、エリザに渡す予定のものだ」

陽彩
「エリザのやつ、間違えて覚えてる日本語が
　いつになっても改善されないだろう。
　少しは改善されればいいと思ってな」

蒼
「ああ……『朝飯前』を『歯磨き前』とか言うしな。
　まあオレたちは慣れたものだが、
　正しく使えるに越したことはないだろう」

蒼
「ただ、姫のことだ。
　陽彩からのプレゼントを受け取って……
　それを素直に活用するだろうか？」

陽彩
「それに関しては問題ない。
　『ぼくはこの辞書の内容を熟知している』などと言え
　ば、寝る間も惜しんで読み始めるだろうさ」

蒼
「っはは。それで後日、日本語クイズバトルとか
　仕掛けてくるところまでセットなんだろう？」

陽彩
「そうだな。あんなに扱いやすい人間は、
　そういないだろうさ」

陽彩
「…………なあ蒼。
　エリザはプレゼントを、喜んでくれるだろうか……？」

蒼
「……きっと口には出さないだろうが……
　喜ぶんじゃないか？きっとな」

マリアンヌ
「あれ、花織さん、眼鏡なんて持ってどうしたんスか？
　もしかして花織さんも眼鏡っ娘デビュー……！？」

花織
「ううん、ウチのじゃなくて。エリザへのプレゼント。
　誕生日、６月１７日でしょ？」

花織
「エリザってすごく眼鏡似合うでしょ？
　おしゃれ用に、一つ持っててもいいと思って」

マリアンヌ
「確かに、姫さんが眼鏡かけると、
　すごく知的にみえるっスよね……！」

マリアンヌ
「あ、いや、普段が知的じゃないってわけじゃ
　ないですが……」

花織
「エリザなら、もしかしたら改造とかしちゃったりして。
　ほら、眼鏡のレンズがディスプレイになってるやつ」

マリアンヌ
「ああ確かに、姫さんなら簡単にやっちゃいそうっスね」

マリアンヌ
「そのうち悪魔との戦いにも持ち出したりして……
　『あの悪魔の強さは３００くらいですわ！』みたいな」

花織
「……意識してなかったんだけど、
　実はエリザってメッチャすごい人……？」

陽彩
「エリザ。その……誕生日、おめでとう」

依子
「おめでとー！」

セイラ
「誕生日おめでとう」

エリザ
「ええ！　大変結構ですわ！
　盛大に祝っていただき、ワタクシも満足です！」

エリザ
「陽彩も、ひとまず今日はワタクシに
　負けを認めるということでよろしいかしら？」

陽彩
「なんの話だ……？」

エリザ
「今日の主役はワタクシ。
　他の有象無象は全て脇役ですわ！
　それはアナタも同じ！」

セイラ
「新しい考えね……」

依子
「ふふん、姫ってばわかってないなぁ……
　主役はなるものじゃなくて、
　自分の手でつかみ取るものでしょ♪」

エリザ
「まあ、イコあなた斬新なことを考えるじゃない！
　ワタクシ目が覚めた気分ですわ、
　ええ主役とはつかみ取るもの！！」

陽彩
「だからなんの話……
　まあ、楽しそうだから別にいいか」

エリザ
「さあこの一年、ワタクシから目が
　離せないようにしてあげますわ！
　精々ワタクシの背中を頑張って追いかけることね！」